ジョゼッペ・フィオリーニ
 「ジョゼッペ・フィオリーニ」(1861〜1934)は、弦楽器製作家の父「ラファエロ・フィオリーニ」の下で、とても若い頃から楽器製作をはじめます。
そして若干24歳で、自身の工房をイタリアのボローニャに構えました。
彼の仕事はこの頃から既に高く評価されており、1881年と1888年に賞を獲得しています。
その後ドイツのミュンヘンに移り、パートナーの「A.リガー」と共に“フィオリーニ&リガー”という楽器商を立ち上げ、楽器製作だけにとどまらず、修理や修復、オールド楽器のディーリング等でも活躍し、広く世界にその名を知られて行くことになるのです。
その後、彼はドイツの弦楽器製作家協会の会長に就任し多忙な日々を送ることとなるのですが、第一次世界大戦を機に、スイスのチューリッヒに移り住み、弦楽器製作に集中します。
この頃、後に20世紀のストラディヴァリウスとも証される「アンサルド・ポッジ」を弟子に迎え入れたのです。



 そして終戦後、彼はさらに大きなチャンスをつかみます。
J.B.ガダニーニのパトロンでもあった、歴史的な収集家「サラブエ卿コッジオ伯爵」から、その所有するストラディヴァリウスが実際に使用していた道具や型枠等の遺産を譲り受けたのです。
この事が、後のイタリア弦楽器製作に大きな影響をもたらします。



 この時期イタリアの殆どの弦楽器製作家は、外枠の型を使用して楽器製作を行っていましたが、ストラディバリウスが使用していた型は、内枠の型だったのです。そのため、フィオリーニはストラディヴァリの製作方法をさらに研究し、イタリアの伝統文化でもあるこの弦楽器製作を正しく広めようとボローニャに戻り、弦楽器の製作学校を立ち上げたのです。
その後、弟子のポッジなどの協力を得ながらもこの学校経営に奮闘しましたが、結局その経営に上手く行かなかったフィオリーニは、ストラディヴァリウスが生涯楽器製作を行った地、「クレモナ」に弦楽器の製作学校を設立してほしいとの願いを託し、その所有する遺産のすべてをクレモナ市に寄付したのです。



 そして、フィオリーニはこのクレモナの地で弦楽器製作学校を設立するという夢を目にする事なく1934年に他界してしまうのですが、その4年後の1938年、ついにクレモナに国際弦楽器製作学校が誕生したのです。(これが現在のクレモナ国際ヴァイオリン製作専門学校)


ジョゼッペ・フィオリーニ
 しかしながら残念なことに、この学校の教師達はフィオリーニの意に反し、自身が行ってきた製作方法を変える事なく外枠の型を使用した製作方法を生徒達に教えていたのです。
それを知ってか否か、ストラディヴァリウス研究家の第一人者「フェルナンド・サッコーニ」は、この遺産をクレモナから借り入れ、さらに深くストラディヴァリの研究を重ねていきます。そして彼のあらゆる角度からの研究がなされた結果、後に世界中の弦楽器職人の誰もが影響を受ける事となるあの名作本、“シークレット・オブ・ストラディヴァリウス”著「フェルナンド・サッコーニ」が発行され、フィオリーニが思い描いていた形とは少し違う形ではあるものの、ストラディヴァリの製作方法はさらに詳しく世に知れ渡って行ったのです。



 今回ご紹介する1923年の「フィオリーニ」の作品は、彼がコッジオからストラディヴァリウスの遺産を譲り受けた3年後の作品で、まさに研究が熟した黄金期の見事なストラディヴァリコピーの作品です。
裏板の材質は画像からも分かるように、ストラディヴァリにも勝るとも劣らないほど輝きのある美しい材質で、これはミュンヘン時代にディーラーとしても幅広く活躍していた彼のネットワークなしには手に入れる事が出来なかったであろう、最高品質の材質です。
細工やアーチ、楽器のフォルム、仕上げやニスなども完璧で、この楽器はまさに彼のキャリアのすべてを表現した集大成の作品と言えるのではないでしょうか。









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参考文献
「Universal Dictionary of violin & bow makers」  著 William Henle
「Liuteria Itariana」  著 Eric Blot
「L’Archet」  著 Bernard Millant, Jean Francois Raffin