「カルロ・トノーニ」(1675〜1730) は、18世紀初頭の水の都ベネチアにおいて、華やかさと高い音響性能を併せ持つ卓越した弦楽器を生み出した、ベネチア派黄金期を代表する名工の一人です。
彼は、北イタリアの都市ボローニャで高名な弦楽器製作者であった父「ジョヴァンニ・トノーニ」の工房で育ちました。父ジョヴァンニは、アマティ派の影響を感じさせる優雅なアーチと美しい黄金色のニスで知られる名手で、カルロは若くして父からボローニャ派の伝統的な技法を学びます。
そして1713年に父が他界した後は、自らの工房を構え、自身のスタイルを模索していき、楽器の幅を少しワイドにし、表板のアーチの中心を少し低めにするなどの工夫をして素晴らしい楽器を製作していきます。
その後1717年頃には、当時、北イタリアの商業・文化の中心地として栄華を極め、音楽文化が花開いていた「水上の大都市ベネチア」へと拠点を移します。


 当時のベネチアには、モンタニアーナやゴフリラ、ピエトロ・ガルネリやセラフィンなど、錚々たる名工たちが集い、互いに切磋琢磨し合う刺激的な環境がありました。
カルロ・トノーニはこの地で、父から受け継いだボローニャ派の緻密で完璧な仕上がりと、クレモナのアマティや初期のストラディバリの洗練されたプロポーションを見事に融合させたのです。
その作品の最大の特徴は、一目でトノーニと分かる非常に丁寧で美しいコーナー周りの細工にあります。 端正にカットされたf字孔や、極めて精巧に埋め込まれたパフリング(象嵌)、そして丁寧に彫り込まれたスクロール(渦巻き)等も、荒々しい作風も多かった当時のベネチア派の中では群を抜いた気品と完成度を誇っていました。
さらに彼の楽器を彩るのが、トノーニ独自の深みのあるイエローゴールドやルビーレッド、またはオレンジゴールドに輝く鮮やかで上質なニスです。この美しい塗膜は、300年の時を経た今なお高貴な光沢を放ち続けています。

 音響面においても、ボローニャ派の豊かな温かみと、ベネチア派特有の色彩感あふれる輝かしい音色を併せ持っています。低音域の深みや中音域のコクと、高音域のどこまでも伸びる華やかな遠達性は、当時の宮廷音楽家から現代のソリストに至るまで、多くの演奏家たちを魅了しているのです。

 1730年に彼がこの世を去ったことで、トノーニ家の伝統は幕を閉じましたが、彼が残した名器たちは「ベネチア派の美学を完成させた至高の逸品」として、オールド・イタリアン弦楽器市場で極めて高い価値と評価を受け続けています。


 今回ご紹介する1715年製の「カルロ・トノーニ」の作品は、彼の父が他界後、独立して自身のスタイルを模索していた時期にボローニャで製作された楽器で、父親譲りの繊細さや丁寧さを残しつつも、彼独自の研究による成果を感じるものになっていて、その向上心や情熱と、勢いやキレを感じさせる楽器となっております。また音響面においても、ボローニャ派が持つ特有の芳醇な倍音の響きと、立ち上がりの鋭い伸びやかで美しい高温の響きを高次元で融合させた、見事な作品となっております。